薄い月の明かりは、扉までは届かない。だが、全体的にぼんやりとは明るい。その中で、浅黒い小顔が笑っている。
凛と整った男らしい眉に、小さくとも存在感のある瞳。少しヨレたTシャツの胸元が淡く浮かび、薄暗い中でも相手が男であることを知らせめる。
薄暗いと言うより、薄群青い世界。
「鍵の壊し方なんて、どこで習った?」
その声は、少し楽しそうだ。
「何を見てたんだ?」
言いながら歩み寄る。
鍵を壊すところから見られていたのか。
いや、そんなことよりも――― なぜ聡がここに?
教室の中、やや蒼白する美鶴の表情は、聡には読み取れていないようだ。その長い足でゆっくりと、隣まで寄ってくる。そうして掲示物へ目を向けた。
そのまま、凝視した。
「これを見に……… わざわざ忍び込んだのか?」
驚いたような声の中に、侮蔑を感じる。
カッと頬が高潮する。
「お前にはっ 関係ないっ!」
必死に抑える声。抑えすぎて、掠れている。
傍らで唇を噛む相手を、聡はゆっくりと見下ろす。
「校内模試の順位か。そんなものの為にわざわざ鍵まで壊したのか? これって、休み明けもしばらく貼り出されてるんだろ? なんでわざわざ――――」
ジャージのポケットに両手を突っ込み、怪訝そうに尋ねる言葉。だが途中で切る。
そうして、すっと瞳を細めた。
他人に関わらず、常に一人で気高く存在する大迫美鶴という存在。集団で行動する輩を軽蔑し、他人になど興味も持たない傲慢不遜なその態度。
だが実際は―――――
「気になるのか?」
美鶴の身体が、ビクリと震える。
「気になるんだな?」
「何が?」
努めて平静を装うが、その声は微かに震えている。
「順位が、気になるんだな?」
「べっ 別にっ」
「ムキになるな」
「ムキになんかなんてないっ」
「じゃあ、無理すんな」
―――――――っ!
向き合う聡はひどく冷静で、物静かで―――― 大きい。
臆するなっ
そう言い聞かせるのに、後ずさりたいと思う自分が、どこかにいる。
「無理すんなよ」
聡は視線を落とし、暗闇の中で足元を見つめた。
月の光の助けもあり、また、校庭の灯りも薄く入る。すっかり慣れてしまった瞳には、磨かれた床がしっとりと濡れて見える。
右足でその床を軽く蹴り、唇を噛んだ。
「もう…… 無理すんなよ」
「それは同情?」
意外な言葉に、聡は顔をあげた。視線の先で、美鶴が苛立ちを滲ませて笑う。
「総合一位だと、余裕ね」
そんなコトか。
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