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【アラベスク】  第4章 男ゴコロ



第2節 銀梅花の香り [6]




 薄い月の明かりは、扉までは届かない。だが、全体的にぼんやりとは明るい。その中で、浅黒い小顔が笑っている。
 凛と整った男らしい眉に、小さくとも存在感のある瞳。少しヨレたTシャツの胸元が淡く浮かび、薄暗い中でも相手が男であることを知らせめる。

 薄暗いと言うより、薄群青(うすあお)い世界。

「鍵の壊し方なんて、どこで習った?」
 その声は、少し楽しそうだ。
「何を見てたんだ?」
 言いながら歩み寄る。
 鍵を壊すところから見られていたのか。
 いや、そんなことよりも――― なぜ聡がここに?
 教室の中、やや蒼白する美鶴の表情は、聡には読み取れていないようだ。その長い足でゆっくりと、隣まで寄ってくる。そうして掲示物へ目を向けた。
 そのまま、凝視した。
「これを見に……… わざわざ忍び込んだのか?」
 驚いたような声の中に、侮蔑を感じる。
 カッと頬が高潮する。
「お前にはっ 関係ないっ!」
 必死に抑える声。抑えすぎて、掠れている。
 傍らで唇を噛む相手を、聡はゆっくりと見下ろす。
「校内模試の順位か。そんなものの為にわざわざ鍵まで壊したのか? これって、休み明けもしばらく貼り出されてるんだろ? なんでわざわざ――――」
 ジャージのポケットに両手を突っ込み、怪訝そうに尋ねる言葉。だが途中で切る。
 そうして、すっと瞳を細めた。
 他人に関わらず、常に一人で気高く存在する大迫美鶴という存在。集団で行動する輩を軽蔑し、他人になど興味も持たない傲慢不遜なその態度。
 だが実際は―――――
「気になるのか?」
 美鶴の身体が、ビクリと震える。
「気になるんだな?」
「何が?」
 努めて平静を装うが、その声は微かに震えている。
「順位が、気になるんだな?」
「べっ 別にっ」
「ムキになるな」
「ムキになんかなんてないっ」
「じゃあ、無理すんな」
 ―――――――っ!
 向き合う聡はひどく冷静で、物静かで―――― 大きい。
 臆するなっ
 そう言い聞かせるのに、後ずさりたいと思う自分が、どこかにいる。
「無理すんなよ」
 聡は視線を落とし、暗闇の中で足元を見つめた。
 月の光の助けもあり、また、校庭の灯りも薄く入る。すっかり慣れてしまった瞳には、磨かれた床がしっとりと濡れて見える。
 右足でその床を軽く蹴り、唇を噛んだ。
「もう…… 無理すんなよ」
「それは同情?」
 意外な言葉に、聡は顔をあげた。視線の先で、美鶴が苛立ちを滲ませて笑う。
「総合一位だと、余裕ね」
 そんなコトか。







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